Sonas blog

東大発無線通信ベンチャー・ソナスのブログです。会社紹介や創業者・社員インタビューなどを通してソナスがどんな会社かをお伝えします。

【開発ストーリー座談会~前編~】 無線センサネットワークの常識を覆すUNISONet誕生秘話

こんにちは。ソナス広報の武田です。

緊急事態宣言の延長に伴い、弊社は引き続き全社員リモートワークを実施中ですが、今回のブログでは、まだ肌寒かった時期に行った、ソナス独自の無線通信規格「UNISONet」開発に纏わる座談会をお届けします。

参加者は、UNISONetの誕生期から開発や実験に携わってきた次の3名です。

鈴木 誠/ソナス共同創業者・CTO
UNISONetの生みの親。東京大学大学院新領域創成科学科特任助教時代に開発をスタートし、その後ソナス株式会社を共同創業。

長山 智則/東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻准教授・ソナス技術顧問
東大でのUNISONet開発時代から鈴木らと共同で実証実験に取り組む。ソナス創業後は、アドバイザーとして土木の見地からアドバイスを行っている。本座談会では後編に登場。

黒岩 拓人/組み込みエンジニア 
ソフトウェア関連企業勤務時代に在籍した東京大学大学院にて鈴木と出会い、UNISONetの誕生を目の当たりにする。その後、企業勤務を経てソナスに入社。

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左から、黒岩、鈴木、長山准教授

同時送信フラッディングを知ったときは衝撃を受けた(鈴木)

ー以前のCTOインタビューでも少し伺いましたが、元々無線センサネットワークの研究に従事していた中で、2011年に初めて同時送信フラッディング(UNISONetの核となる転送技術)の論文を読んだときは驚いたそうですね。

鈴木:衝撃を受けましたね。「同じ形の電波を重ねたら、壊れずに受信できる」というところ。僕らも説明を簡単にするために、この説明をすることもありますが、厳密に(いわゆるRF帯まで)同じ形の電波を事前のネゴなしで複数の無線機から同時に出すというのは、不可能なことです。

その後の研究で「変調方式によっては、厳密に同じ波形でなくてもパケット受信成功率が落ちない」ということが分かりましたが、当時は不思議だなー、、、なんで動くんだろうこれ、と思いながら研究を進めました(笑)

でも、本当の驚きは、その先でした。この論文の内容は、同時送信で効率よくフラッディング(全体にパケットを送信すること)ができる、というものでしたが、思考実験的に、この方式だけでネットワークを作るということを考えてみました。そうすると、従来のルーティングと比べて桁違いに性能が高くなるという結果が出たのです。何度も、計算の桁を間違えてないか確認したのを覚えています(笑)

それまでのマルチホップの無線センサネットワークでは、信頼性を失わずに消費電力を減らすためには、どのユニットを辿って宛先まで到達するかという道順(ルート)を決める、「ルーティング」という結構複雑な機能が絶対必要だと考えられており、この分野で一番主流のトピックでした。

それが、この思考実験が本当であれば、実はフラッディングこそが信頼性も高く、しかも消費電力を減らすのに有効だ、となる。センサネットワークの技術が全部が変わるんじゃないか、という高揚感がありましたね。

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黒岩:(同時送信フラッディングは)すごく仕組みが簡単なんですよ。 ただ、無線を勉強したことのある人からすると「本当に?」と疑ってしまう。ところが、鈴木さんが実際にネットワークを動かして見せるので、それを見たときに面白そうだなと思いました。あと、(それまでのマルチホップ無線では難しかった)時刻同期が簡単にできるっていうのも驚きの一つでした。 でも、当時鈴木さんがその論文のことを研究室で話したときに「面白いね」と言ってる人は一部でしたね。そんなにみんな盛り上がってる感じはなかったです(笑)。

鈴木:研究室内外問わず、そんな感じでしたね(笑)ただ、1年くらいして、ルーティング型マルチホップで問題だった不安定なところを抜本的になくせるんじゃないかという話が出てきたときに、研究室の人たちも盛り上がってきたかなと思います。ルーティング型は、送信する経路を1つに絞るものであるため、本質的に安定性を確保するのが難しいという問題があったんです。

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研究室在籍時代、イタリアの国際会議に参加した際の食事風景(鈴木、黒岩)

ー実際の研究はどのように進めていったのですか?

鈴木:まずは、実際に実機を使って原理検証をして、その思考実験が本当であることを確かめました。

その後は、ルーティングでは暗黙的に諦められていた、ロスレス通信や移動体対応などの機能も含めて、いちから、センサネットワークのあるべき形や産業的に必須となるであろう機能を考えながら進めていきました。

ロスレスの機能などはルーティングベースだとかなり難しいですが、同時送信では、簡易に美しく実現することができました。そして、実際に実現してその動きを見てみると、こんなこともできるんじゃないか、という考えがドンドン出てきたので、それを優先順位を付けて実現していきました。高速データ通信対応や、全ユニットの一括リプログラミング機能なども、同時送信の動作を見てからの発想です。

それと、研究室的に実用思考が強かったので、元々共同研究をしていた企業や研究室などと協力しながら、実際の農場や橋梁での実用を目指しながら研究を進めていきました。

辛かった点で言うと、「実際に使えるように様々な状況でのエラーに対応する」であるとか「誰が見てもそのアイデアの有効性が判断できるように評価する」というのは、非常に時間がかかりました。後者は、今でもやりきれてはないと思います。

前者について言うと、同時送信フラッディングの論文著者によって公開されていたソースコードがあったのですが、通信に化けたデータが混ざるなどの問題があったのでそこを改善したり。机上で実装したものをテストベッドで実験し、その上で農場や橋梁などの実環境で実証実験へと進めていき、その段階ごとに出てくる問題を解決しながらスペックや安定性を上げていきました。

最初の実証実験は農場での温湿度モニタリング

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ー最初の実証実験は農場で行ったそうですね?

鈴木:前述の元々共同研究をしていた企業の中にグリーンハウスを貸してくださる方がいたんです。その農場で、20~30台設置した子機から1分に1回温度と湿度をセンサで測って収集するというモニタリングシステムを作っていました。最初はルーティング型のマルチホップ無線を使ってやってたんだよね?

黒岩:そう ですね。当時メジャーだったTinyOSというセンサネットワーク向けOSで標準的だったルーティングプロトコルを試しました。再送の仕組みがあるものの、実環境で集められるデータはせいぜい99%が限界で、置く場所によっては80%程度に留まりました。それこそ途中で止まっちゃうとかなかなか(上手くいかなかった)。

鈴木:UCバークレーとか世界のトップ大学が作っている技術だから大丈夫だろうと思って使うんですけど(笑)途中で止まっちゃうことが多かったですね。それが2010年頃。

ーそこでUNISONetを使ってみようということになった、と。

鈴木:そうですね。2012年くらいのときに、UNISONetだったら動くんじゃないの、ということで前述のシステムを作り変えて、研究パートナーの企業や大学とセンシング実験をやって(成功した)。温湿度モニタリングのように定期的にセンサで測ってデータを集めるだけのものは比較的簡単にできました。

黒岩:TinyOSでは、80%とかよくて99%ぐらいの成功率だったと言いましたが、UNISONetだと、ほぼ100%に近い値となりました。

鈴木:(データが届かなかったときに)再送できる機能を入れたので、一つ一つのデータロスが減ったんですね。あと、時刻同期によって全子機一斉に同じタイミングで測ることができるので、例えば光が差してきたときに(ネットワーク全体の)スナップショットが取りやすく、データ処理しやすいものができました。

ー農場モニタリングの実証実験が成功して、UNISONetの可能性に自信を深めましたか?

鈴木:そうですね。ただ、農場モニタリングの要件を満たす程度であれば、インパクトとしては一研究プロジェクトで、3年くらいやって終わるくらいのものです。そのような時に、久しぶりに長山先生に会って話した時に、UNISONetは実は橋梁モニタリングにも使えるのではないか?という感触を得ました。

無線センサネットワークの界隈では、橋梁モニタリングは、データ量も多く、ロスも許されない、省電力が必要など、一番難しい対象の一つとして認識されていました。チャレンジングな目標でありワクワクするとともに、橋梁で実際に使えるものを作り上げることができれば、広い領域で使われるものになるだろうという感触がありました。

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後編では、橋梁モニタリングの実証実験を進める中で、どのようにUNISONetが進化していったのかについて話が進んでいきます。 お楽しみに!