Sonas blog

東大発IoTスタートアップ・ソナスのブログです。会社紹介や創業者・社員インタビューなどを通してソナスがどんな会社かをお伝えします。

【開発ストーリー座談会~後編~】技術的難易度の高い土木構造モニタリングの現場でぶつかった壁、そして現在まで

今回は、前回お届けしたUNISONetの開発に纏わる座談会の後編です。

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農場での実験後、橋梁のモニタリングの実証実験に挑む中でどのように壁を乗り越えて 今のUNISONetへと進化を遂げてきたのか? 座談会の盛り上がりにより少々長編になっていますが、ぜひご一読ください。

  • 座談会参加者

鈴木 誠/ソナス共同創業者・CTO

長山 智則/東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻准教授・ソナス技術顧問

黒岩 拓人/組み込みエンジニア

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同時送信フラッディングを知って、土木のIoTはUNISONetじゃないと難しいと思った(長山)

ー橋梁の構造物モニタリングからは長山先生と取り組んでいくことになったわけですが、長山先生は同時送信フラッディングについて最初にお聞きになったとき、どう思われましたか?

長山:鈴木さんとは、まだ同時送信フラッディングが存在しない時代からの知り合いでした。その頃から同期計測とか同期通信を非常に厳密に考えられている方で、土木の観点からすると時刻同期というのは非常に重要なんですけど、その重要性を分かって研究されている電気情報系の方ってあまりいないので、「鈴木さんは非常に我々の関心を分かってくださる方だな、一緒にできるといいな」と思っていました。

その頃、既存の振動計測システムではなかなか我々の要件を満たすものがなかったので、自分たちでプログラミングをして、秋葉原で部品を買ってきたりして自前のシステムを作ったりしていたんですが、初めて鈴木さんが同時送信フラッディングの論文を紹介してくださったときには、仕組みや原理からしてシンプルなものだったので面白そうだなと思いました。そこから先は「もうここにのっかっていこうかな」と。

鈴木:我々からみても、この通信プロトコルが稀有なものとか、これじゃないとダメという感覚を持ってくれる人がなかなかいなかったので、そこにのっかってくれたのはとても有難いことで、僕自身もかなりモチベートされました。それがなかったらここまでやっていなかったかもしれないです。

長山:やっぱりマルチホップの煩雑性とかそういう問題を全部解決してしまうという点が「すごいな」と思いましたね。そういう気持ちをお互いに抱けたので一緒にやってきたんだと思います。

ーマルチホップの煩雑性とは具体的にはどういうことですか?

長山:他のマルチホップ無線でも、力技でシステムを作ろうと思えば多分作れるんですよね。例えば、レインボーブリッジで振動を計測しようと思ったら、それ用にカスタマイズしていけば、時間をかけて頑張ればできると思うんですけど。

鈴木:橋でいうと、ここに柱があって電波が不安定だからこれはこっちにしか繋がらないようにしようとか、ここは今は繋がっているけど一時停止する車や列車の通過によって遮られそうだから迂回しようとか、そういうコードを橋梁ごとに書いていけば多分できると思うんですけど、それをやるには、事前調査など一つの橋梁にすごい時間とお金がかかってしまう。 このように個別の事前調査や開発に時間や費用が嵩むのであれば、むしろ有線でいいのではないか、となってしまう。

長山:我々が無線を使うのも、無線を使うこと自体に意味があるのではなくて、やっぱり安価で簡単に測れて、だからこそ測る対象や場所、時間を選ばない、例えば、橋梁点検で変状が見つかったら臨機応変に監視できるとか、大型台風の来襲時に長大橋の観測網を即座に作り上げられるということが(配線の必要のない)無線のメリットなので、UNISONetじゃないと(土木のIoTは)難しいなというのは強く思いました。

難易度の高い橋梁モニタリングの実証実験では苦戦が続いた

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ー先ほど例としてレインボーブリッジの話が出てきましたが、実際にレインボーブリッジでも実験をしたんですよね。

長山:はい。レインボーブリッジ(での実験)は、我々がImote2というセンサネットワーク用無線端末を使っていた頃から取り組んでいます(編集注:Imote2は2005年に米インテルが発売)。

全長800mにもおよびますし、自動車やゆりかもめ、歩行者が行き交う環境のなかですから、そこに安定した無線計測ネットワークを作り上げるのは難しいのです。

当初、我々だけで実験していた頃は悉く…まぁ表向きは成功したというか、取れたデータはあるんですよ。ですけど、丸一日かけても、橋全体の振動挙動をきれいに捉えられたのは2~3分のデータだけ、という程度でした。朝現地に入って設置して計測や通信を試みてもうまくいかない。電波の状況をみてアンテナ位置やプログラムを修正しては再度試す、でもうまくいかない、というのを繰り返す、とても労力のいる作業でした。2~3分のデータが漸くとれたころには、撤収の時間になっていました。

2~3分という短時間ですけれど、データがとれて大変ほっとしたのを覚えています。我々の観点からすると、データが取れないと計測をした意味が全くないですから。簡単に測れる、臨機応変な、という理想とは程遠いものでした。

鈴木:僕が最初にレインボーブリッジ計測にお邪魔したのは2012年。まだ加速度センサは搭載しておらず、電波実験的な感じでシステムを設置させてらいました。

長山先生が当時使われていたシステムの端末を並べている横で、研究室の学生に一人でUNISONetの端末を並べてもらって、通信実験をさせてもらったんです。実験後、その設置の簡便さや通信状況に関して「素晴らしかったです」というメールを先生からいただいたことはよく覚えています。

長山:その後、2014年にUNISONetをテーマとしてSIPという国のプロジェクト(編集注:戦略的イノベーション創造プログラム。総合科学技術・イノベーション会議が、府省や分野の枠を超えて科学技術イノベーションを実現するために創設されたプロジェクト)に我々含む東大の3研究室とJIPテクノサイエンスという会社が採択され、計4年半に渡って一緒に研究開発に取り組む中で、各地の橋の振動計測をしました。

でも、始まってみるとデータが取れていなかったり、途中で電池切れなのか反応しなくなる子機があったりとか、まぁいろいろと(問題が)ありました。次第にいくつかの橋で意味のあるデータが取れ始めるようになって、2015年の都市内高速の高架橋における計測の後くらいからは、通信が安定するようになってきました。

鈴木:バグ対応への積み重ねもあり、その頃から安定しましたね。今の「sonas xシリーズ」のプロトタイプができたのもこの時期です。同時期に発売されたエプソンやアナログ・デバイセズの高精度・低消費電力な加速度センサに対応したことで、加速度センサとしての魅力も、飛躍的に向上したと思います。

色々な分野の技術が進んだことで、IoTが現実的に価値のあるものになろうとしている、ということを当時感じました。

余談ですが、都市内高速にシステムを設置した現場は今までと違う世界で衝撃でした。研究室でも、情報通信の人も現場に出ようということは言っていたんですけど、雨の日に狭くて暗く、決してきれいとは言い難い検査路に入ってセンサを置いてきたり、かなり物理的・精神的に鍛えられました(笑)。

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都市内高速での設置作業

長山:SIPの期間中は、大体1カ月に1回くらいの頻度で測っていました。それだけの回数測ったという事実自体がこの技術の効能を表していると思います。

普通、計測となるとケーブルをたくさん用意して発送して設置して測ってと非常に手間と時間がかかるので、一つの組織で一年に10回も15回も計測するということはなかなかない。特に我々は、講義とか他の研究の合い間に計測やその準備をするわけですから。それが、xシリーズのプロトタイプのおかげで、電池も現地調達でいいし、設置も1日もかからずに測ることができて、使い終わった電池は現地で処分して、というサイクルで本当に便利になりました

鈴木:徐々に安定するようにはなりましたが、起業してからも大変なことはありました。いちばんきつかったのは新那珂川大橋の地震モニタリングです。(横浜国立大学の)藤野先生と50台くらい設置して今もモニタリングを続けていますが、最初に設置したのは2017年4月の起業直後のことでした。当時は、研究室時代と全然違うハードやソフトに移行したタイミングで全然動かなかったんですよね。この頃は(クラウドを利用して)遠隔からデータを吸いだすという機能がまだなかったので、2か月後にデータを取りに行くと全然取れていなかったみたいなこともあって、今もご指導いただいていますが、藤野先生には大変ご迷惑をおかけしました。

土木や建築のIoTという技術的にチャレンジングな領域で信頼を築き、我々のミッション遂行に邁進したい

ー黒岩さんはその頃ソフトウェア企業に勤務されていたそうですが、UNISONetの進化をどうご覧になっていましたか?

黒岩:その頃は、2年に1回くらい鈴木さんから話を聞いていましたが、UNISONetの原型ができあがった当時からすると、SDカードに記録できるようになったり、システムとして洗練されてきたなぁ、より使えるシステムになってきているなぁと思っていました。加速度センサのデータも 確実に集められているというのは、「それくらい速さがでるんだ」と驚きましたね。

それで、一回鈴木さんに会社に来てもらって、「こんな面白いものがあるんですけど、どうですか?」というのを説明してもらったことがあります。僕と鈴木さんはすごい盛り上がったんですけど、うまく伝えられませんでしたね(笑)。

鈴木:センサネットワークに身も心も捧げた時間がないとなかなか伝わらないですね。それは今も抱えている課題かもしれない。(CEOの)大原もよく言ってますが、「一回検討してダメだった人にはささる」が、それがないと「他のでいいじゃん」てなってしまう。

ー他の無線で課題を感じていたり、「これではだめだ」という経験をしていないとすごさが伝わらないということなんですかね。

長山:温度計測とかね、そんなに(性能が)必要ないじゃないですか。アプリケーションによってはこれでなくても足りてしまうとか。いろいろなものが出ていますからね。

土木建築のIoTでも、温度とか傾斜の情報を低頻度で得らればいいとか、いろんなものがあります。UNISONetじゃなくてもできるものももちろんあるのですが、私が取り組んでいるような振動情報も活用したモニタリングに関しては(UNISONetに代わるものは)ないと思うので、ソナスさんがこけてしまったら私の夢もこける、土木建築の振動系のIoTは当面難しいんだろうなと思っています。

ー長山先生の夢というのは、構造物の振動データを取ってそれを社会に還元し、インフラの維持や設計に活かしていくということですか?

長山:そうですね。それに加えて防災減災ですね。地震だけでなく、最近は水害も増えていますよね。地震や台風洪水の後は、構造物に問題が起きたり、川の中の橋脚が流されることがあります。その時に、IoTですぐに構造物の状況をモニタリングして、迅速に安全性を確認してから人や車、電車を安全に通す。あるいは危険性のある構造物は利用を止めるということをしたいと思っています。UNISONet以外にそれを容易に実現できるIoT基盤技術はないと思われるので、ソナスさんには益々頑張ってもらいたいですね。

鈴木:ありがとうございます。長山先生のように、情熱的にIoTの開発・応用を進める方と共同して開発を進める中で感じたことが、我々が掲げているミッションに繋がっています

ソナスのミッション

「世界で最も信頼されるワイヤレスソリューションの確立し、IoTを実践する人々に喜びや驚きをもたらすとともに、あらゆる産業がIoTの恩恵を享受できる社会を実現する」

土木や建築のIoTという技術的にチャレンジングな領域で信頼を得ることは、我々のミッションにとってとても重要です。ご期待に応えられるよう、ますます開発・展開を頑張りたいと思います。

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UNISONetは、農場や橋梁でのモニタリングを経て、最近では工場の設備・機械の稼働監視システムなどにも使われています。

今後も益々活用領域を広げていくUNISONetの展開にぜひご期待ください。